日本を代表するあるスポーツ選手がまだ中学生ぐらいのころ、「●●(競技名)をやっていてどんなときが楽しいですか」という質問に対してこう答えていました。
「楽しむためにやっているわけではないので……」
私は当時22歳ぐらいだったと思いますが、アスリートの意識の高さに感動したことを覚えています。
ライターという仕事がめずらしく感じられるためか、私も同じように質問されるようになりました。そのたびに「あのアスリートのようにカッコよくキメてみたいな……」などと思うのですが、結局は可能な限りの答えを探してしまいます。こうしたストレートな問いをぶつけてくるのは就職活動中の学生さんが多いからです。
私もそうでしたが「就活のときにはじめて自分の人生について一所懸命考えてみた」という方は多いと思います。そう考えるとできるだけ有意義な返答をしたくなってしまうのですね。
そうだとは言え、これがなかなかむずかしいものです。原因の一つは「ライターの楽しさとは?」などと考えながら仕事をしているわけではないことです。しかしもっとも大きな原因は、仕事に対する信念やスタンスがクリアになっていないことではないかと思います。
今回は自分のなかをクリアにする意味も込めて、ライターの“気持ちいい瞬間”をまとめようと思います。こらからライターになりたいと思う方や就職活動中の方の参考になれば幸いです。
1、書き終わったとき
ライターが最初に味わう気持ちいい瞬間は原稿を書き終わったときではないでしょうか。
書くべき原稿を抱えている状態は少なからずプレッシャーを感じているものです。書き終わった瞬間は、この鎖から解放された瞬間でもあります。私の場合「飲むか? 映画でも観るか?」などと考え、無駄にテンションが上がってしまいます。たいていは次に書くべき原稿が控えているため、そそくさと仕事に取り掛かるのですが……笑
2、ねらい通りに読者に伝わったとき
ここでいう「読者」とは、本を購入してくださった人やサイトユーザーではなく編集者やディレクターを指します。ライターが書いた文章を最初に読むのはエンドユーザーではなく制作関係者なのですね。
文章を書くとき、ライターは明確なねらいを持っています。これに沿って段落の順番を決め、単語を選択しながら一文ずつ書いていくわけです。こうしたねらいが編集者やディレクターにうまく伝わったことがわかるときがあります。この瞬間は非常に気持ちいいものです。
3、クライアントに喜んでもらえたとき
これには原体験があります。
25歳ぐらいのころ4ヶ月間だけ求人広告を作っていました。求人広告は「給与」や「勤務地」など書くべき要素が決まっているのですが、時々これだけではスペースが埋まらないことあります。この場合、応募につながるような文章を書いて載せることになるのですが、クライアントが自分で書くのは難しいものです。必然的に広告の担当者がこのスペースを埋めることになります。
入社して1ヶ月後、突然この仕事を任されました。クライアントはウィークリーマンションの運営会社で、フロント業務の担当者を募集していました。打ち合わせをすると、長期出張中のビジネスマンがよく利用するとのこと。家族から離れて誰もいないウィークリーマンションに帰るのは味気ないだろうな。せめてフロントの人が笑顔で迎えてくれたら少しは癒されるかもしれないな……。こんな思いが頭にパッと浮かびました。
そこで正確には覚えていませんが、「疲れて帰ってくるお客様を笑顔でお迎えしませんか?」という旨の文章を書きました。誰かのために尽くしたいというホスピタリティにあふれた方はいるはずだし、クライアントもそういう人材を求めているはずだと考えたのです。
これを提出したところクライアントは本当に喜んでくださいました。自分の書いた文章がこんなにも誰かの役に立つなんて……。あのときの手ごたえはいまも忘れることができません。
現在もさまざまな方と一緒に仕事をさせていただいています。毎回こうした体験をできるわけではありませんが、同じような感覚になることはあります。一度味わったらやみつきになる瞬間です。
4、ねらい通りに読者が動いてくれたことを感じたとき
こちらの「読者」は、エンドユーザーのことです(ようやく登場しました笑)。
編集者やディレクター、クライアントの利益になるように文章を書くのがライターの仕事ですが、読者のことを忘れてはいけません。自分の書いた記事に「へえ、なるほどね!」「今度、あのお店に行ってみよう!」などと感じてもらえたらうれしですよね。
ただライターの場合むずかしいのは、エンドユーザーの顔が見えづらいということです。たとえば、自分が書いた本を「誰が」「誰と」「なぜ」「どこで」「どんなシチュエーションで」読んでいるのかを知ることは基本的にできません。このあたりが個人経営の飲食店などと異なるところだと思います(それぞれに大変なことがあるのは承知しています)。
比較的ユーザーの動きがわかりやすいのは購入や契約につながるコピーを書いたときです。特にインターネットの場合は、どのページからどれだけの契約があったかわかるようになっています。納品後、自分の文章からどれだけの契約があったかを聞くことがあるのですが、その数が多いとやはりうれしいものです。
5、友人や知り合いがわざわざ連絡をくれたとき
書籍やムックなど紙媒体の仕事をすると、最後に自分の名前をクレジットしてもらうことができます。
うれしいのは、これを見た友人がわざわざ連絡をくれたときです。「本買ったら岸の名前が書いてあってびっくりしたよ!」「読んだよー! おもしろかった!」などなど……。つい先日も、このサイトのコラムを人に勧めてくださった人がいて舞い上がりました。本当にありがとうございます。
読者の顔が見えづらいライターにとって、これほどうれしいことはありません。もう一気にその人のことが好きになります。私をうまく利用したい方は、ぜひ一度この手を使ってください笑
すごく短いパートになりましたが、実はこれが一番うれしいことかもしれません。
6、バズったとき
聞きなれない言葉かもしれませんが、「バズ」とはインターネット上の記事が短時間で多くに人に読まれることです。誰かに読まれることをPV(プレビュー)といいますが、ネットではわずか1時間の間に数万PVに達することもあります。紙媒体しかなかった時代には考えられなかったことです。
私は仕事をはじめてから紙媒体ばかり書いてきたので、はじめてWebの仕事をしたときには非常に戸惑いました。それまでは内容にさえこだわっていればよかったのですが、いかにしてバズを起こすかまで考えて記事を書かなければならなくなったからです。
そんな私がはじめてバズを体験したのはほんの数年前のこと。趣味でやっていたブログの記事に1時間で1,500PVがあったのです。プロブロガーの諸先輩方にすればバズとは呼ばないほどのレベルだと思いますが、自分としては本当にうれしいことでした。
現在もWebの仕事を続けていますが、短時間で数万PVに達したときは、やはり気持ちいいものです。
淡々と書きましたが、実際にこういう状況になったときの私はかなりハイになっています。もしやけにテンションの高い私を見かけたら「なんかいいことがあったんだな」と察して、ぜひ声をかけてください。さらにテンションが上がります笑
この記事が、新人ライターや就職活動中のみなさまの参考になることを願って……!
今回もありがとうございました。